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ジョバンニ あれは何の火だろう。あんな赤く光ってる、あの火は何を燃しているのかな。 カンパネルラ (地図を見て)蝎の火じゃないかな。 少女 蝎の火(外を見る)、蝎の火のことなら私、知ってるわ。 ジョバンニ 蝎の火って、何。 少女 蝎が焼けて死んだのよ。その火がいまでも燃えているって、私、何回もお父さんから聞いたわ。 ジョバンニ 蝎って、虫だろう。 少女 そう、蝎は虫よ。でもね、いい虫だわ。 ジョバンニ 蝎は、いい虫じゃないよ。僕、博物館でアルコールにつけてあるの見たよ。尾にこんなとげがあって、それで刺されると死ぬって先生が言ってたよ。 少女 そうよ。でもね、いい虫なの。お父さんから聞いたお話はね、昔むかし、バルドラの野原に一ぴきの蝎がいて、小さな虫を殺して食べて生きていたんですって。するとある日、イタチに見つかって食べられそうになって、蝎は一生けん命逃げて逃げたけど、とうとうイタチに捕まりそうになったの。その時、突然目の前に井戸があってその中に落ちてしまったの。もうどうしても上がれなくて、蝎は溺れ始めたの。その時ね、蝎はお祈りをしたというの。「神様、私は今までいくつの命を取ったかわからない、そして、その私が今度イタチに捕まりそうになった時、あんなに一生懸命逃げた。それでもとうとうこんなになってしまった。どうして私はこの体を、だまってイタチに捧げなかったのか。そうしたらイタチも一日生き延びたでしょう。神様、私の心をごらん下さい。どうかこの次には、ほんとうのみんなの幸福のために私の体をお使い下さい」って言ったのよ。そうしたら蝎は自分の体が、まっ赤な美しい火になって燃え出して、夜の闇を照らしているのを見たんですって。その火が今でも燃えてるって、お父さんお話してくれたの。きっとあの赤い火が蝎の火だわ。 |
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